東京に出てきてもう10年。
ご存じかもしれないが、僕は中央線沿いに住むことが多かった(現在は中野在住)。そのためか、これまで食生活に関しては恵まれた環境であった。しかし、数年前まで、ひとつだけ悩み事があった。僕の好物のひとつにラーメンが挙げられるのだが、東京に出てきて、食文化の違いに初めて直面したのが、ラーメンなのである。
僕の出身は、四国徳島。まずは、徳島ラーメンいや、御当地風に言えば徳島中華そばについて、簡単に説明してみよう。
スープはトンコツ醤油ベースで、こげ茶色をしており、けっこうコッテリ味である。麺は、中ぐらいの太さで、どちらかといえば、ストレート麺である。具は、モヤシ、チャーシュー、メンマ、なるとがのっている。これが、徳島中華そばのスタイルであるが、一時注目された、和歌山ラーメンのスタイルと酷似している。事実、徳島中華そばの源流は、和歌山ラーメンであるとも言われており、徳島中華そば≒和歌山ラーメンと考えてもらってよい。
幼いころから、この徳島中華そばを食べてきた僕にとっては、ラーメンの常識が徳島中華そばになっていて、東京に出てきて、いわゆる透き通ったスープの東京ラーメンを食べたときは、はっきり言って「これがラーメンなの?」という感触であった。
以来、様々なラーメン店を食べ歩いたが、徳島中華そばに匹敵、あるいはそれを超越するラーメンに出会うことはなかった。「東京にいる限り、美味いラーメンを口にすることはもうできないのであろうか。」こうして、僕の悩みは始まってしまったわけである。そのためか、徳島に帰ると、必ず、昔よく行っていた中華そば屋に必ず立ち寄るのであった。
少し脱線するが、徳島では、チャーシューめんというメニューはない。チャーシューめんが食べたい時は、「肉入り」と注文する。チャーシューめんの大盛りの場合は、「肉大(ニクダイ)」といった感じで。
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それでも、さすがに10年も東京に住んでいると、自分の味覚に合ったラーメンに出くわすようになった。ここ2・3年は横浜家系(よこはまいえけい)ラーメン(豚骨醤油スープに極太麺の組み合わせが特徴)にハマッていたのだが、最近また美味いラーメンに出会うことができた。
ある日のことだが、久しぶりに八王子の街をぶらりと歩いてみた。実は、八王子には、大学生の頃、小門町という所に1年間住んでいたことがある。僕が住んでいた建物から少し南下した所に中央線の踏切がある。その踏切の脇に、「村山ホープ軒」という小さなラーメン屋ができていた。
「こんな所にラーメン屋なんてあったっけ?」などと思いながら、そのラーメン屋の前を通ると、トンコツの香りがプーンと。匂いに誘われるかのごとく、店に入ってみる。出てきたラーメンを見てみると、まずドンブリ一面に広がった背脂の量にギョッとする。
スープは、店の看板には「豚骨ラーメン」と書いてあったが、いわゆる博多豚骨ラーメンのような白いスープではなく、豚骨スープに若干醤油がブレンドされているのであろう、やや茶色がかったスープである。麺は、中細のストレート麺、具は、チャーシュー、焼海苔、そしてタップリのモヤシが入っている。
まずは、れんげでスープを一口すすってみる。意外や意外、見た目のわりにはあっさりしている。それでいて、しっかりコクのある、なかなかいい味である。続いて、シャキシャキのモヤシと一緒に麺を食べてみる。素朴な味なのだが、何か昔食べたことのあるような、とても懐かしい味がする。そして、「カンカンカンカン」という踏切の音と、「ガタンゴトン」という電車の通過音を聴きながら食べるラーメン、なかなか乙なものである。
さて、この「村山ホープ軒」、武蔵村山に本店があり、多摩地区各地に展開しているようである。中央線沿いでは、他に西国分寺にもお店がある。吉祥寺に「ホープ軒本舗」というのがあるが、何かしら関係があるのかもしれない。
それにしても、本当に美味い一杯のラーメンというものは、心の底から幸せな気持ちにしてくれる。不思議なものである。(太鼓打ち)